2026年5月、ある医療ITニュースが業界に静かな衝撃を与えました。AIネイティブの電子カルテシステムが、EU(欧州連合)の厳格な医療機器規制(MDR)においてClass IIa認証を取得したというニュースです。
AIが医師と患者の会話をリアルタイムで聞き取り、自動的に電子カルテを作成する——そんな時代が、すでに始まっています。
では、こうした流れの中で「カルテ翻訳」はどうなるのでしょうか。翻訳会社として20年近く医療翻訳に携わってきた立場から、率直にお伝えします。
AIはカルテを「書く」ことはできる。しかし「翻訳」は別の話
AIによるカルテ自動作成の核心は、日本語で完結した医療記録を効率よく生成することです。医師の発話を認識し、構造化し、保存する——この領域ではAIは確かに優れた能力を発揮します。確かに、これまでの手書きカルテの解読は難解な作業で誤った情報になる危険がありました。この点の改善は、絶大です。
しかし、そのカルテを別の言語に正確に変換する作業は、まったく別の問題です。
たとえば、外国人患者が日本の病院を受診し、海外の医療機関に診療情報を提供しなければならない場面を想像してください。あるいは、在日外国人の患者が、母国語で自分の病状を理解したいと望む場面を。
こうした場面で求められるのは、単なる語句の置き換えではありません。医療用語の正確な対応、文化的背景の理解、そして誤訳が患者の命に関わりうるという責任感です。
「ヒューマン・イン・ザ・ループ」という考え方
今回認証を取得したシステムも、AI単独での判断を認めていません。必ず人間の医師が確認・承認するプロセス——いわゆる「ヒューマン・イン・ザ・ループ」を維持することが、規制上の条件となっています。
これは翻訳においても同じです。
AIによる機械翻訳の精度は年々向上しています。弊社でも複数のAI翻訳ツールを活用しています。しかし医療文書においては、AIの訳出結果を専門知識を持つ人間が必ず確認するプロセスが不可欠です。
「だいたい合っている」では済まない。それが医療翻訳の世界です。
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外国人患者の増加と、翻訳需要の現実
訪日外国人数は回復を続け、在日外国人の数も増加の一途をたどっています。医療現場における多言語対応のニーズは、今後さらに高まることが予想されます。
しかし現実には、医療機関の多くが多言語対応に苦慮しています。電子カルテのAI化が進んでも、**その記録を患者本人や海外の医療機関が理解できる言語に変換する手段**は、まだ十分に整備されていません。
AIがカルテを書く時代だからこそ、そのカルテを「届ける」ための翻訳の役割は、むしろ重要性を増していると感じています。
まとめ
– AIによる電子カルテ自動作成は、医療ITの新たな標準になりつつある
– しかし医療文書の多言語翻訳においては、専門家による確認が引き続き不可欠
– 外国人患者対応という観点から、医療翻訳の需要は今後も続く
カルテ翻訳・医療翻訳についてのご相談は、藤戸翻訳(株式会社イーアールエフ)までお気軽にどうぞ。
